軟骨を鼻先に挿入するときには、良い結果を得るためには、その方法も、大変重要な要素となります。
軟骨を採取する部分は、ほとんどの場合、耳介(耳の形を造っているところ)です。その中でも、耳の穴の横から採取する場合がほとんどです。軟骨を採取するには、やはり耳の皮膚を切開する必要があるのですが、それは耳の後ろのシワを利用します。この部分の切開は、術後の早期から非常に目立たないためです。実際に、耳を前に倒して引っ張らないと、傷が見えません。さらに、たとえ耳を前に倒して引っ張ったとしても、最終的には、よく目を凝らして視ないと分からない場合が、ほとんどです。この軟骨を採取する際には、麻酔は局所麻酔で十分です。麻酔の注射を行う時の注射針自体も非常に細いのと、麻酔薬を特別に調合していますので、実際の痛みは、ピアスホールを開ける時よりも軽度です。
また、「軟骨を鼻尖(鼻先)に入れる手術をしても、吸収されてしまった」という話を、耳にすることがあります。これは、耳から採取した軟骨の処理に問題がある場合がほとんどです。軟骨の構造は、コンドロイチンとカルシウムでできた多くの細胞外マトリックスの中に、少量の軟骨細胞が分散して浮遊しているといったものです。そしてその中には、血管やリンパ管などの、栄養や酸素を運搬するシステムが全くと言っていいほど存在しません。その中の軟骨細胞は、細胞外マトリックスから直接、酸素と栄養を受け取って生存している状態です。この細胞外マトリックスには、軟骨の外側を取り囲むように存在する軟骨膜が、酸素と栄養を供給しています。軟骨膜は血流が豊富で、軟骨に対して効率よく酸素と栄養を供給するシステムが存在します。そしてこの軟骨膜には、軟骨を再生したり、軟骨膜自身を再生したりするための幹細胞も豊富に含まれています。このような軟骨の性質から、当院では、軟骨を鼻に挿入する際には、必ずこの軟骨膜を軟骨に付けた状態で、挿入します。そうすれば、これまでの経験上、軟骨の吸収もなく、鼻には元の軟骨のボリュームを、ほぼそのまま残すことができます。しかし、この軟骨膜を取ってしまった状態では、挿入された軟骨は、最終的にはその体積が半分から3分の一に減少してしまいます。これは、軟骨膜がないことによって、移植した軟骨の周辺での血管の再生や、軟骨膜自身の再生が遅くなるため、移植した軟骨の一部が壊死に陥り、吸収されてしまうためです。このように、挿入する軟骨の処理においては、できるだけ多くの軟骨膜を軟骨に付着させたまま、目的の部分に挿入することが大切なのです。