プロテーゼに関しては、物質安定性の良いものを使用することは勿論なのですが、それを推し量ることに関しては、体内環境の特殊性を考慮しなくてはいけません。
実際にはどのように推し量るのかと言うと、まず化学薬品、特に酸に対する安定性を確認するために、強い酸性の化学薬品で溶けないかどうかということを、確認しなければなりません。次に、熱に対する安定性です。比較的高温の環境下で安定性を保てる物質である必要があるのです。これら、強酸や高温環境と言うのは、人体内の環境とは違ったものなのですが、人体には、多種多様な細かい環境が同時に存在し、さらに、一旦人体に埋め込むと、埋め込まれた物質は長期間の環境変化に暴露されます。この、環境の多様性とその長期に亘る期間と言うのを、研究室内で再現することは困難なため、その分、強い刺激を与えてみるということを行うのです。このようにして行われた検査の結果、物質安定性に優れたものが、プロテーゼに相応しいものと言うことができるのです。
ちょっと余談なのですが、今から60~70年前までは、隆鼻術(鼻を高くする手術)には、象牙が盛んに用いられました。この象牙は、後に述べる生体親和性はそれほど悪くなかったのですが、この物質安定性は悪いものでした。象牙は、元を糺せば象の歯です。歯は、カルシウムとコラーゲンでできていて、虫歯の原因の一つでもある酸に弱いことは、ご存じだと思います。